鷹鹿よもやま話
ネットの浅瀬、とある石の裏側より

創作語りや、フォームからお送りいただいたご感想、お問い合わせへの返信を行います。

2026年3月7日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

「何もない素晴らしい一日」、この間の続きです。
書き出しが前回の終わりと重複しています。
#得ざるものども文章進捗

 ものの15分ほどで会議室に舞い戻ると、フリアンはルドヴィックにすぐさま椅子をすすめ、着席したのを見届けてからその斜め向かいの席に自らも腰を下ろし、慣れた手つきで筆記用具と資料を広げて仕事にとりかかった。もちろん、手持無沙汰なルドヴィックをなるべく退屈させないよう、頃合いを見ながら当たり障りのない話題を提供するのも忘れない。「手洗いに行くときは少し面倒だが1つ上のフロアに行くと個室が広いからおすすめ」だとか、「のどが乾いたらフロア突き当りの休憩室にウォーターサーバーがあるのでそれを利用すると良いし、ついでに部屋の窓から通りを眺めると気分転換になる」だとか。そんなことを話していたら、フリアンはあることを第一に確認せねばならなかったのを思い出し、「そういえば」と続けた。
 「お昼は少し遅めの時間に、併設のカフェで済ませようと思うのですが、それでもいいですか」
 そのカフェにはいくつか半個室スペースがあり、人目を気にせず落ち着いて食事がとれるし、全体的に量が少なめなので食が細くても手早く食べきれる。なので、可能であればそこで昼食を済ませてしまいたかった。しかし、腹にたまる肉系のメニューは無いので、ルドヴィックにとってはあまり好ましくない提案だろう。そう案じて様子をうかがっていると、ルドヴィックは不満げながらも小さくうなずいた。フリアンは胸をなでおろして、手元の資料に目を落とす。
「今月からカルボナーラをリニューアルしたらしいですよ。ルドヴィックさん、先月立ち寄ったお店で食べてたじゃないですか。味を比べてみたら面白いかもしれませんね」
 言外に「知らねえよ」と返したげなため息が聞こえたが、フリアンは構わずに続けた。
「最近コメンキュームの方でも小麦の品種改良が盛んにおこなわれていて、それがフェガティアにも入ってくるようになったんですよ。リニューアルしたパスタに使われてるんですって……」
 そうこう話ながらある資料に目を通していた時、先に目を通した書籍の記述との矛盾点を発見した。あわてて辞典を引き寄せながら、前後の文脈もあわせて再度検討するが、いまひとつ正誤が判然としない。まだ確認していない本の中からより新しい発行日のものを探り当て、素早くページをめくっては慎重に読み進めていく。フリアンはすっかり自分の世界にのめりこんでしまった。

「おい」
 かすかな緊張をはらむ低い呼びかけをどこか遠くのもののように感じながら、紙面にペンを走らせる。先ほどよりも強めの声が飛んできて、ようやく意識が紙面から小会議室へと急激に戻ってきてた。自分のそばにルドヴィックがいることを思い出したのだ。慌てて顔を上げてみると、ルドヴィックがこちらに怪訝そうな眼差しを向けていた。いつもより眉間のしわが深まっている。いら立っているとも、疑っているとも似つかないその表情。困惑している? いったいなぜ。
「どうしましたか?」
「どうも何もない。いつまでそれは続く」
 顎で卓上を示されたので、そうですねと呟きながら手元を見渡し、レポートをめくって、予定と実際の進捗を頭の中で比べた。おおむね望ましいペースでことは進んでいるだろう。
「こちら側に寄せてある3冊の本を確認したら、一度休憩します。ざっと見積もってあと一時間ほどでしょうか」
 鼻根に刻まれた線を一層深くしたルドヴィックは、口の中で「いちじかん」という言葉を反芻した。それを見て、フリアンは腕時計に目をやると、あと少しで13時に差し掛かるところだった。2時間は集中していたのかもしれない。
~中略~
 困惑の仕草と声の震え。この密室で過ごしている時間はルドヴィックにとって、動揺が見かけに現れてしまうほどの心的負担を伴うものなのだと。
 
 何も起こらないこと――誰からも敵意を向けられない穏やかな時間を過ごすことが、異常事態。
 
 フリアンの心の奥に、鋭くて冷たい痛みが広がっていく。ルドヴィックの内心にまったく思い至らなかった後悔の念が。一刻も早く外に連れ出してあげたい。それだけではなく、何か気が紛れるようなことを提供できればなおのこと良い。すぐに思考を巡らせ、未確認の資料を素早く手に取り、背表紙を開いた。
「いえ、まずはこれらの内容を確認します。既知のものであれば、時間をかけて読み解く必要はありませんから、その分時間を短縮できるかも」
 言葉を紡ぎながら、ふと思いついた。フリアンはもう一冊本を取り、十数枚の小さな紙切れとともにルドヴィックの前に差し出す。
「ルドヴィックさんがもしよければ、索引からこれと、これと……この単語を探してもらえませんか?」
 言われるがままに背表紙を開くルドヴィックの隣にすばやく移動し、共に索引から単語を見つけ出して該当のページを開き、紙片を小口から少しはみ出すような形で挟み込むよう手伝った。
「今と同じことを繰り返して、すべてのページをマークし終わったらここに置いてください。その次はこの本をお願いします。大丈夫、すぐに確認します。それと、この作業が終わったら資料をいったん返却して、少し離れたところまで外出しましょう」
 「昼はここで済ますんじゃねぇの?」
 「予定変更です。外の空気をたくさん吸いたくなったので」
 所在なさげな声で「わかった」とだけつぶやくと、説明を受けている間どこか空を見ていたようなルドヴィックは、また索引へと焦点を戻したようだった。いつになく彼が協力的なのは、目の前の資料に興味があるからではない。早くここから出たいという一心からに違いなかった。真っすぐ胸を貫く勢いで伝わってくる苦悶に、フリアンは自分の呼吸さえ詰まりそうになるのを感じて、一度深呼吸する。少しだけしびれた手の感覚を確かめるように何度か握りつつ着席すると、急いで内容を精査し始めた。
 フリアンは、隣にいる大男が何よりもはかなくて不安定な存在のように思えてならなかった。
~ここまで~

この時点のフリアンは、ルドヴィックが置かれてきた異常な抑圧環境について、シラさんからある程度聞いて把握している、という状況。
勢いでバーッと書いてみたは良いものの、数日おいてから読み直してみると、文章の運びの不自然さが気になってひっくり返りそうになりますね…。畳む

創作語り

2026年3月4日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

頭の中で「ふわもこふりあんのテーマ」なるサンバチックな半インスト曲が爆誕しました。それがずっとエンドレスリピート状態なのでそろそろおかしくなりそう。
半インストなんていう中途半端な言い回しなのは、歌詞が全部「おわあ」だからです。どんな世界観だよ。
文字に起こしたら世界の因果律が書き換えられてこのエンドレスリピートから抜け出せるかもしれないと思い立ちましたので、ちょっと試してみます。
言うまでもなく様子がおかしいので格納。怖いもの見たさでゆっくりのぞいていってね!

前奏
ピーピーピピッ ピーピーピピッピッ(おなじみのリズムのホイッスル)×2
ドゥンチャカドゥンチャカ…(ホイッスルの裏にぬっと入ってくるドラム。一斗缶でも可) ×2
ドゥンチャカドゥンチャカ ドゥピッピッピッピ(ドゥピッピッピッピの時にもドラムは変わらず鳴っている)
ドゥドゥドゥチャーン ドゥドゥドゥチャーン ズダダダダダダン ッターン!(ズダダダダダダンの所でッピーーーーとホイッスル)

[ッターンの音に被せて鳴りだすサビ。主旋律はトランペット系。音の運びはゴエモンもののけ双六のタイトル画面と、大黒摩季の「OH-MENI-MITE-YO!!」を足して二で割った感じ]
おおっおっおーわっおー おおっわおーわっおー (ピーピーピピッ ピーピーピピッピ…)(タタンタッタッタ ドゥンタッタッタッタ…)
おわっわおわっわおわっわおわっわおーわっおー
おおっおっおーわっおー おおっわおーわっおー
おわっわおわっわおわおわおわお~~~ぅ

[ドラムとパーカッションのみの間奏(コールアンドレスポンスタイム)]
おーわ!(Call…) (おーわ!(Response…))
おーわお!(Call…) (おーわお!(Response…))
おわっわっわっわ!(Call…) (おわっわっわっわ!(Response…))
(Everyone…)お~~~~~~~~っわ~お!

[わ~お!に被せて再びサビ]
おおっおっおーわっおー おおっわおーわっおー
おわっわおわっわおわっわおわっわおーわっおー
おおっおっおーわっおー おおっわおーわっおー
おわっわおわっわおわおわおわお~~~ぅ

[締め]
お~~~~~~~~~(一番大変)()
わ~~~~~~~~~(お~とハモる)
あ~~~~~~~~~(お~わ~とハモる)
(ッパワワワワ~~~ンと小気味よく伸びるトランペットの音)
ドゥドゥドゥチャーン ドゥドゥドゥチャーン ズダダダダダダン
(Everyone…)おっわあ! ッターン!

<完>

各楽器とボーカルの重なりを表現するのが難しくて多少の妥協が見られますが、そもそもこんなん正確に書き表すことでもないだろと思った。
これでも全然収まってくれなかったらどうしよう。一斗缶小脇に抱えて、ホイッスルくわえて、ひっくり返すたびに「ウィミョ~~~~ン」みたいな音が鳴るおもちゃ腰に差してさ、カラオケボックスまで這って行って収録しなきゃダメとかなったら困るが。通報不可避じゃんか。畳む

よもやま話

2026年3月1日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

SNSの運用について、個人的な心情の吐露とまではいかないけど、「ちょっと距離とるね!」という感じのお話です。
創作から一歩離れたいわゆる自我多めの記事だし、単純に長いので格納します。

まず、Misskeyの一次創作.designサーバー以外のSNSアカウントは、順次運用停止または削除することにしました。
具体的には、Misskey.io、Xfolio、支援とBooth目的で使用しているPixivです。しずかなインターネットはマイクラプレイ日記の連載がまだ途中なので、それが終わってから去就を考えます。
ちなみに、サイトのプロフィール欄に一時期記載していたBlueskyのアカウントはすでに削除済みです。

.designサーバーでの活動についても、かなり淡々としたものになっていくというか、現在すでに低浮上になっていますね。
今後は完成品の投稿と、サイトの更新を告知するだけとなり、それ以外でほぼ動かすことは無くなります。リアクションもほとんどしない壁打ちと呼ばれる状態になる感じです。
去年の今頃にも一度「SNSから距離取ります~」と言っていたので、「花粉の飛散が始まると全部投げ出したくなる性質なんかいなお前は」と自分でも突っ込まずにはいられません。

しかし、なにも衝動的に撤退を決めたわけではなく、個人サイトを作ろうと決意した段階で、こうすることは既定路線化していました。
Xfolioファンコミュの、昨年12月の記事と個人サイト開設告知記事でも、そういった趣旨のことを書いてました。

SNSは双方向的あるいは多方向的なやりとりの場ですが、主観的には多対一の構図になってしまうもの。
となると、自分が何かを出力するよりも、入ってくる情報のほうが圧倒的に多くなってしまうのは自明の理。少なくとも私にとってはそういう状況でした。すでにキャパオーバーかもしれないと、時々言い洩らしてもいましたね。
もとより私の脳みそは情報処理能力に秀でているとは言い難く、いつからか受け止めきれない情報だけがどんどんかさみ、出力にもおのずとネガティブな影響がおよんで、ただROMるのもしんどくなってしまいました。
そんな負のスパイラルに陥っている自覚は去年の半ばからすでに持っていたので、これを断ち切るためにはSNSをやめる方向で動く他ないだろうと判断しました。

> 活動の軸足はいつも個人サイトに置きつつ、その時その時で触れる情報を変えてみる。
> 交流したいときには交流し、傍観したいときにはROM垢から静かに眺める。
> 自創作を発信する自分と、誰かの創作を受け止める自分、それぞれの感覚を分離する。
> そして、ひたすらこつこつと、空いた時間に作品を作っていく。
> 活動二年目はそんな試みをして行けたらなと思っています。

上記は先ほど挙げたXfolioファンコミュの昨年12月の記事『あっという間の一年間と、これから先の一年間のこと』からの引用です。
まあ、心地よい距離感の測定を試みる以前の段階でしんどくなったのなら、これはもうどうしようもない。

しかし、とうのXfolioに関しては「これからも利用を続けていきたい」とかなんとか書いていたのに、たった数か月でそれを反故にすることになるので、ここだけは個別に理由をお話しておきます。
Xfolio版石のウラがわライフでは、トップページやガイドラインページへの、短時間で3ケタにも達する異常な閲覧回数が記録されることがありました。なんらかのクローラーによるアクセスが原因と思われます。
この問題にサービス内で利用できる対抗策を試そうと思い、ひとまずBot検出機能をONにしたところ、利用継続の根拠となっていたタグ経由での幅広いアクセスが、なんらかのBotによる無作為的なものだったのではないかという疑念が浮上する結果となってしまいました。
倉庫として利用することも考えましたが、諸般の事情でそれもNGということになり、いよいよもって利用目的を見失うに至ったので、完全撤退の決意を固めた次第です。
ありがとう、そしてさようなら、初代『石のウラがわライフ』……。

SNSの話題からは少し離れますが、オフラインイベントに関しても言及しておきます。
過去にTAMAコミやティアに出たい!と発言していましたが、これらは完全に撤回します。
『鷹鹿』という名義での活動範囲はオンライン上かつ趣味に留まるものに限定し、作品展示はホームページと.designサーバーだけという姿勢に振り切ろうと決心しました。
「得ざるものども」をはじめとした鷹鹿名義の作品は、基本的に物理書籍・グッズ化して頒布される可能性は低いと考えてください。※デジタル配信の可能性はあります
物理不存在をカバーするための個人利用範囲の明文化がある、なんて言いぐさは完全に後付けですが……まあ、もともと法律で認められている用途なので私が許可を出す出さないなんてのは変な話。
気に入った作品があれば遠慮なくご自宅で印刷してお気に入り作品集を作ってくださってもまったくかまいませんので、その点はご心配なく。
むしろインク代や用紙代を負担してまでも手元に置きたいと思ってもらえたら、それはとても名誉なことだと思います。
ちなみに、自宅に印刷環境がないなどの事情で、特定の作品をネップリ配信してほしいなどの要望があれば、Googleフォームからリクエストを送ってください。できる限りお応えします。

そういうスタンスなので、もし何かのオフラインイベントに出るとしても、鷹鹿ではない別ものとして出るだろうと思います。
それはサークル参加と一般という区別によらず、そもそもオフライン環境に鷹鹿という存在はいないし、いるべきではないだろうということです。それが自分にとって一番楽な形なので。
感想を伝えるにしても匿名のほうがいいのかも。今後はそうしようと思います。畳む


私がこれから本当に、個人サイトというネットの石の裏側にしか生息しない生き物になったら、この記事は役目を終えたということで削除します。予めご了承ください。

よもやま話

2026年2月28日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

せっかくなので、先ほどの記事にちらと書いたフリアンとルドヴィックの信頼関係の確立エピソードの草稿を置いておきますね。
冒頭部分のおよそ2,000文字、校正は甘々ですが、よければご覧ください。

今後、この類の記事は以下のタグでより分けられるようにしておきます。
#得ざるものども文章進捗


 フリアンが連盟図書館フェガティア分館二階の小会議室にルドヴィックを連れて入室したのは、午前9時30分のこと。
 6脚ある椅子のうちひとつの座面に手早くサイドバッグを下ろすと、貴重品が入ったポーチだけを肩にかける。そうして身軽になってから一階へと引き返し、職員にあらかじめ準備してもらっておいたブックカートを借りると、見上げるほど背の高い書架の間を足早に進んでいく。フリアンは前を向いたまま、手に持ったメモを後方のルドヴィックに見せつつ、抑えめのトーンで説明した。
「必要な資料はこのとおりです。あらかじめ収蔵場所を確認してありますので迷わず行けますよ。そうそう、おれの手が届きにくい場所に配置されているものは代わりに取ってもらうことになりますので、恐れ入りますがそのときはよろしくお願いします」
 もちろん返事はない。一般図書エリアを通過するとき、「作業中の暇つぶしに一冊持っていくか」と提案したが、やはり同じだった。しかし、フリアンがそれに対して小言を並べることはもうしない。ルドヴィックのあからさまに不愛想な態度の裏にある事情を鑑みれば、心に一切の波風が立つことなどないくらい、もはや日常的な所作となっているのだから。
 
 この日、フリアンが図書館にやってきたのには2つの理由があった。
 1つめは、新製品に使用する小麦の品種と粉末の配合量を速やかに決定するための事前調査である。製品開発というものは試作を重ねていくのが主要なやり方だが、社内外で繰り返されてきた妨害工作による印象操作と、エイツ農村の環境改善を急ぐために散々働いてきた無体へのツケが回ったのだろう、本社に具体的成果を提出するまでの猶予設定が突然前倒しされてしまっていたのだ。しかも、期限内に成果を出せなければ、すでに承認されたはずの農地計画までもが白紙に戻ってしまうというのだから事態は深刻である。なので、試作回数を最小限におさえ、かつ成果は最大限にするためにも、できる限り最良の候補を絞り込む必要があった。
 2つめは、ここ最近不穏な出来事が立て続けに起こっているので、比較的安全な場所にこもって穏やかに過ごしたいと思ったからだ。本来は生活上の指南役という名目で同行しているルドヴィックが、○○○○による一連の拉致計画事件をはじめとした様々な局面において、肉体の盾や反撃装置として矢面に立たされる場面が増加したことも、心労として重くのしかかってきていた。自分が騒動の中心にいることだけは確かなのに、全容を把握することはなぜか許されず、改善不可能な状況にとどまり続けることを強いられる。これにはさしものフリアンも参ってしまった。同じく辟易としているであろうルドヴィックの顔を見ると、心に申し訳なさが先立つようになってしまったほどに。
 だからフリアンはこの日、自分だけではなくルドヴィックの身の安全までもが約束されるよう、他者との接触が最低限に抑えられ、かつ警備が万全な環境で一日中過ごせる場所に引きこもって過ごそうと考えた。喫緊の課題に全力で向き合えて、しかも一日中心穏やかに過ごせる環境とくれば、図書館はまさしく理想的だ。狭い自室でびっしりと書き込まれたスケジュール帳をにらみつけていたフリアンは、お手製のポテトボウルを頬張りながらうつうつとしていたが、これを思いついた途端に心のくもりが一気に晴れたような気分になった。
 図書館で缶詰状態になって勉強するだけのそれを「なにすば作戦」――何もない素晴らしい一日作戦――と名付けたフリアンは、すぐさまリスケジューリングなどの準備を済ませ、立案から3日後にはもう実行に移したのだった。
 
 目的の農林水産エリアまでやってくると、彼らの足からは一層迷いがなくなり、書架の間を次から次へと動き続けた。案の定、はしごが設置されていない中途半端な高さの書架の最上部にある資料は、フリアンの背丈では微妙に届かない。普段ならば踏み台を借りるのだが、今日に限っては無駄な動きを最小限に抑えたかったので、ルドヴィックに声をかけて代わりに取ってもらうようにした。
 なぜそうまでして効率的に動きたがるのかといえば、それは他者との接触をなるべく避けるためであり、それはフリアン自身のためではなくルドヴィックのためであった。彼の安全を確保することは、単に警備が保障されている領域に入るだけでは済まされず、悪意を隠している人物との接触機会の回避までもが含まれなければならないと、フリアンは経験上そう確信していたのだ。

 ものの15分ほどで会議室に舞い戻り、フリアンはルドヴィックにくつろぐよう椅子をすすめ、着席したのを見届けてからその斜め向かいの席に自らも腰を下ろし、慣れた手つきで筆記用具と資料を広げて仕事にとりかかった。畳む

創作語り

本を読みながら「得ざるものども」のストーリーをまとめています。
が、物事を端的にまとめるのが苦手すぎて、文章量がかさんでいくのに対し、年表は全くまとめられる気配がありません。
作中の年号は作ったんですけど、各歴史イベントの間隔は何年くらい空けたらそれらしいのかがわからないのと、出来事を書き表すのにちょうどいい表現をつかみ損ねているので、まだまだ道のりは遠いようです。用語集も同じ理由で進捗だめです。ははぁ。

その代わり、本編中の細かなエピソードをいくつか思いつくことができたので、妙な満足感に浸っています。
たとえば、フリアンがルドヴィックの言動に違和感を抱き始めたところから、ルドヴィックが置かれている状況の異質さおよび本来の人格についてとある仮説を立て、期せずしてそれを実証できたと同時に互いの信頼関係が一層強固なものになるまでの一連の流れとか。
いや~爽快だなこりゃ!だから考えるのって楽しいんだな!

そんな感じで、新しい知識体系を取り入れるかたわら、その産物であるやっつけ理論を援用しながら今まで溜めてきたエピソードの断片を検討してみたところ、余白の中にまったく気にしていなかった問いがおぼろげに見えてきたり、因果関係が新しく結びついたりして、自分の中のパラダイムシフトがわっしょいしょい。
結果的にはストーリーの軸がより定まる方向に作用しているのでいいのですが、実は思いのほかスリリングな体験に身を投じていたのかもしれないと感じています。
ただうつろな好奇心に誘われて、なんら一切の覚悟もなく、頼りない自我のひもだけを携えてレッツバンジーしてしまったようなものだったというか。
方向感覚の一切を喪失しかけて「助けてくれ~~~ッッッ!」と叫ぶ自分と、停滞から解き放たれたような無重力体験に歓喜して「おもしれ~~~ッッッ!」とはしゃぐ自分とに振り切り続けているみたいな。

一冊目に読んだ入門書が「文学理論[クリティカル・ワード]」で、文学理論とはそもそも何かに始まり、文学に通底する思想の変遷、主要な理論の成り立ち、重要な人物名と用語など、広範な知識を得ました。同時に今まで見てきた世界が根底から揺らがされるような衝撃と、それに伴う不安感の襲来があり、さっきの「助けてくれ~~~ッッッ!」状態に陥ったわけですが。もちろん「おもしれ~~~ッッッ!」とも思ってはいましたが。
で、その次に前述の書籍の中で紹介されていた「読んでいない本について堂々と語る方法」という、大変クールなタイトルの本に手を伸ばしてみたのですが、おそらくこれは(自分にとっては)大正解だったというか、理論を実践的に表現したユーモラスな筆致でもって、際限なくかつ深刻さを帯びて広がっていく思索の波をいい感じにやり過ごす方法を教えてもらえたようで助かりました。ここへきて「おもしれ~~~ッッッ!」がはっきりと優勢になった感じというか。あとこの本なんか……使えるもの全部使って著者の理論を鮮やかに実用しきっているので、そこが面白すぎていっそずるいまであります。読んでよかった!
これから論旨が重たく、比例して心も重たくなるであろう本の表紙を開くわけですが、知識を得たときに自己世界が受ける不可避の衝撃をなるべく低減できるよう努めながら、自分の中の規範が覆っていく過程を楽しんでいきたいと思います。

文字を読んでいると文字を書きたくなる。読んでいる人は同時に書いているとは、感覚的にはこういうことなんだろうか。
とにかくどんどこ読んで書いての日々を過ごすのが今は楽しい。そんな感じです。ではまたね!

よもやま話

2026年2月23日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

創作についての漠然とした悩みを抱えていた折、縁あって知った文学理論の入門書を読み始めたのですが、
半分ほど進んだあたりで「これは今まさに一番必要な知識じゃないか!!!」と気づき、いてもたってもいられなくなって図書館へ走りまして、
書中で紹介されていた資料の中から特に気になった3冊を借りてきて、横断的に学習態勢を取っています。

いろいろ描きたいとか言ってたけど、創作活動はちょっとお休みです。

冒頭で示した漠然とした不安の正体は、おそらく「自分が表現を通して誰に何を伝えたいのか、それを明文化できないもどかしさとうしろめたさ」なのでしょう。
自分の思考傾向からしても、明らかに、社会のあり方、個人と社会のかかわり方について関心があるのは間違いないんだけど、前提知識が足りなさすぎるというか、そんな感じ。
物語を描くとき、哲学的な前提情報がどうしても足りなくなることはいくらか仕方ないとしても、無自覚のうちに深刻な倫理的間違いを犯すことはできる限り避けたいな、という思いが常にありまして、それが言い訳みたいに作用してしまって本編制作からの逃げを打たせている、気がする。
架空の世界の出来事としてであっても、特定の目的意識のもとに発生した社会運動を描く上で、基本的人権や平等権という人類史の重要なファクターを素通りしてしまうのは、相当まずい。

文学、ひいては芸術文化が、脈々と受け継ぎながらも深化させてきた思想について、真正面から取り組む意義が、未だかつてないほどの重量感をもって私にのしかかってきているのを感じます。
文学理論を通して倫理や哲学といった理論の深遠な意義の一端に触れることによって、まだ言語化できないけど確かに自分の中にある違和感のような「何か」をすくい上げ、創作に活用できたらいいなぁと、そんな風に考えるのでした。
面白い。文学理論。

追記
勉強中は漫画やイラストは作らなくなるけど、用語集や簡易キャラクター紹介は用意する……かも……。

よもやま話