せっかくなので、先ほどの記事にちらと書いたフリアンとルドヴィックの信頼関係の確立エピソードの草稿を置いておきますね。 冒頭部分のおよそ2,000文字、校正は甘々ですが、よければご覧ください。 今後、この類の記事は以下のタグでより分けられるようにしておきます。 #得ざるものども文章進捗 何もない素晴らしい一日(草稿) フリアンが連盟図書館フェガティア分館二階の小会議室にルドヴィックを連れて入室したのは、午前9時30分のこと。 6脚ある椅子のうちひとつの座面に手早くサイドバッグを下ろすと、貴重品が入ったポーチだけを肩にかける。そうして身軽になってから一階へと引き返し、職員にあらかじめ準備してもらっておいたブックカートを借りると、見上げるほど背の高い書架の間を足早に進んでいく。フリアンは前を向いたまま、手に持ったメモを後方のルドヴィックに見せつつ、抑えめのトーンで説明した。 「必要な資料はこのとおりです。あらかじめ収蔵場所を確認してありますので迷わず行けますよ。そうそう、おれの手が届きにくい場所に配置されているものは代わりに取ってもらうことになりますので、恐れ入りますがそのときはよろしくお願いします」 もちろん返事はない。一般図書エリアを通過するとき、「作業中の暇つぶしに一冊持っていくか」と提案したが、やはり同じだった。しかし、フリアンがそれに対して小言を並べることはもうしない。ルドヴィックのあからさまに不愛想な態度の裏にある事情を鑑みれば、心に一切の波風が立つことなどないくらい、もはや日常的な所作となっているのだから。 この日、フリアンが図書館にやってきたのには2つの理由があった。 1つめは、新製品に使用する小麦の品種と粉末の配合量を速やかに決定するための事前調査である。製品開発というものは試作を重ねていくのが主要なやり方だが、社内外で繰り返されてきた妨害工作による印象操作と、エイツ農村の環境改善を急ぐために散々働いてきた無体へのツケが回ったのだろう、本社に具体的成果を提出するまでの猶予設定が突然前倒しされてしまっていたのだ。しかも、期限内に成果を出せなければ、すでに承認されたはずの農地計画までもが白紙に戻ってしまうというのだから事態は深刻である。なので、試作回数を最小限におさえ、かつ成果は最大限にするためにも、できる限り最良の候補を絞り込む必要があった。 2つめは、ここ最近不穏な出来事が立て続けに起こっているので、比較的安全な場所にこもって穏やかに過ごしたいと思ったからだ。本来は生活上の指南役という名目で同行しているルドヴィックが、○○○○による一連の拉致計画事件をはじめとした様々な局面において、肉体の盾や反撃装置として矢面に立たされる場面が増加したことも、心労として重くのしかかってきていた。自分が騒動の中心にいることだけは確かなのに、全容を把握することはなぜか許されず、改善不可能な状況にとどまり続けることを強いられる。これにはさしものフリアンも参ってしまった。同じく辟易としているであろうルドヴィックの顔を見ると、心に申し訳なさが先立つようになってしまったほどに。 だからフリアンはこの日、自分だけではなくルドヴィックの身の安全までもが約束されるよう、他者との接触が最低限に抑えられ、かつ警備が万全な環境で一日中過ごせる場所に引きこもって過ごそうと考えた。喫緊の課題に全力で向き合えて、しかも一日中心穏やかに過ごせる環境とくれば、図書館はまさしく理想的だ。狭い自室でびっしりと書き込まれたスケジュール帳をにらみつけていたフリアンは、お手製のポテトボウルを頬張りながらうつうつとしていたが、これを思いついた途端に心のくもりが一気に晴れたような気分になった。 図書館で缶詰状態になって勉強するだけのそれを「なにすば作戦」――何もない素晴らしい一日作戦――と名付けたフリアンは、すぐさまリスケジューリングなどの準備を済ませ、立案から3日後にはもう実行に移したのだった。 目的の農林水産エリアまでやってくると、彼らの足からは一層迷いがなくなり、書架の間を次から次へと動き続けた。案の定、はしごが設置されていない中途半端な高さの書架の最上部にある資料は、フリアンの背丈では微妙に届かない。普段ならば踏み台を借りるのだが、今日に限っては無駄な動きを最小限に抑えたかったので、ルドヴィックに声をかけて代わりに取ってもらうようにした。 なぜそうまでして効率的に動きたがるのかといえば、それは他者との接触をなるべく避けるためであり、それはフリアン自身のためではなくルドヴィックのためであった。彼の安全を確保することは、単に警備が保障されている領域に入るだけでは済まされず、悪意を隠している人物との接触機会の回避までもが含まれなければならないと、フリアンは経験上そう確信していたのだ。 ものの15分ほどで会議室に舞い戻り、フリアンはルドヴィックにくつろぐよう椅子をすすめ、着席したのを見届けてからその斜め向かいの席に自らも腰を下ろし、慣れた手つきで筆記用具と資料を広げて仕事にとりかかった。畳む 2026.2.28(Sat) 17:05:51 創作語り
冒頭部分のおよそ2,000文字、校正は甘々ですが、よければご覧ください。
今後、この類の記事は以下のタグでより分けられるようにしておきます。
#得ざるものども文章進捗
フリアンが連盟図書館フェガティア分館二階の小会議室にルドヴィックを連れて入室したのは、午前9時30分のこと。
6脚ある椅子のうちひとつの座面に手早くサイドバッグを下ろすと、貴重品が入ったポーチだけを肩にかける。そうして身軽になってから一階へと引き返し、職員にあらかじめ準備してもらっておいたブックカートを借りると、見上げるほど背の高い書架の間を足早に進んでいく。フリアンは前を向いたまま、手に持ったメモを後方のルドヴィックに見せつつ、抑えめのトーンで説明した。
「必要な資料はこのとおりです。あらかじめ収蔵場所を確認してありますので迷わず行けますよ。そうそう、おれの手が届きにくい場所に配置されているものは代わりに取ってもらうことになりますので、恐れ入りますがそのときはよろしくお願いします」
もちろん返事はない。一般図書エリアを通過するとき、「作業中の暇つぶしに一冊持っていくか」と提案したが、やはり同じだった。しかし、フリアンがそれに対して小言を並べることはもうしない。ルドヴィックのあからさまに不愛想な態度の裏にある事情を鑑みれば、心に一切の波風が立つことなどないくらい、もはや日常的な所作となっているのだから。
この日、フリアンが図書館にやってきたのには2つの理由があった。
1つめは、新製品に使用する小麦の品種と粉末の配合量を速やかに決定するための事前調査である。製品開発というものは試作を重ねていくのが主要なやり方だが、社内外で繰り返されてきた妨害工作による印象操作と、エイツ農村の環境改善を急ぐために散々働いてきた無体へのツケが回ったのだろう、本社に具体的成果を提出するまでの猶予設定が突然前倒しされてしまっていたのだ。しかも、期限内に成果を出せなければ、すでに承認されたはずの農地計画までもが白紙に戻ってしまうというのだから事態は深刻である。なので、試作回数を最小限におさえ、かつ成果は最大限にするためにも、できる限り最良の候補を絞り込む必要があった。
2つめは、ここ最近不穏な出来事が立て続けに起こっているので、比較的安全な場所にこもって穏やかに過ごしたいと思ったからだ。本来は生活上の指南役という名目で同行しているルドヴィックが、○○○○による一連の拉致計画事件をはじめとした様々な局面において、肉体の盾や反撃装置として矢面に立たされる場面が増加したことも、心労として重くのしかかってきていた。自分が騒動の中心にいることだけは確かなのに、全容を把握することはなぜか許されず、改善不可能な状況にとどまり続けることを強いられる。これにはさしものフリアンも参ってしまった。同じく辟易としているであろうルドヴィックの顔を見ると、心に申し訳なさが先立つようになってしまったほどに。
だからフリアンはこの日、自分だけではなくルドヴィックの身の安全までもが約束されるよう、他者との接触が最低限に抑えられ、かつ警備が万全な環境で一日中過ごせる場所に引きこもって過ごそうと考えた。喫緊の課題に全力で向き合えて、しかも一日中心穏やかに過ごせる環境とくれば、図書館はまさしく理想的だ。狭い自室でびっしりと書き込まれたスケジュール帳をにらみつけていたフリアンは、お手製のポテトボウルを頬張りながらうつうつとしていたが、これを思いついた途端に心のくもりが一気に晴れたような気分になった。
図書館で缶詰状態になって勉強するだけのそれを「なにすば作戦」――何もない素晴らしい一日作戦――と名付けたフリアンは、すぐさまリスケジューリングなどの準備を済ませ、立案から3日後にはもう実行に移したのだった。
目的の農林水産エリアまでやってくると、彼らの足からは一層迷いがなくなり、書架の間を次から次へと動き続けた。案の定、はしごが設置されていない中途半端な高さの書架の最上部にある資料は、フリアンの背丈では微妙に届かない。普段ならば踏み台を借りるのだが、今日に限っては無駄な動きを最小限に抑えたかったので、ルドヴィックに声をかけて代わりに取ってもらうようにした。
なぜそうまでして効率的に動きたがるのかといえば、それは他者との接触をなるべく避けるためであり、それはフリアン自身のためではなくルドヴィックのためであった。彼の安全を確保することは、単に警備が保障されている領域に入るだけでは済まされず、悪意を隠している人物との接触機会の回避までもが含まれなければならないと、フリアンは経験上そう確信していたのだ。
ものの15分ほどで会議室に舞い戻り、フリアンはルドヴィックにくつろぐよう椅子をすすめ、着席したのを見届けてからその斜め向かいの席に自らも腰を下ろし、慣れた手つきで筆記用具と資料を広げて仕事にとりかかった。畳む