「得ざるものども」本編からだいぶ後の話をこねこね。漫画じゃなくて文章です。 思考回路が伝言ゲームみたいに広がる生き物であるため、その日その日で注力できることがコロコロ変わるのが我ながら難儀。 直接的ではないものの、キャラクターの死の話題と割と直球なネタバレを含むので格納します。 整えたら作品として展示したいところ。 #得ざるものども文章進捗 ここをクリックして表示する 【あらまし】 親友4人組の中で最も長生きしたデラノが、自叙伝の中でフリアンのことに触れる話。 ~以下本文~ ルドヴィックが亡くなってから10年後。 97歳のデラノは、ジャルダン・リータウローズ作の寓話「呑み得ざるもの」を原作に据え、時代の流れに翻弄される男性同士の親密な関係性を描いた戯曲「蛇といばら」を制作。音楽、舞台美術、衣装設定、脚本、何からなにまで自らが指揮を執って作り上げ、ミュージカルとしてイブレガーロ連盟の各劇場で公開した。 古くから親しまれ、何度もアレンジされてきた「呑み得ざるもの」だが、デラノが行った改変は前代未聞であった。賛否両論は瞬く間に世界中を駆け巡り、様々な議論を巻き起こしながらも大ヒットする。 それから時期を置かずに上梓した自叙伝には、編集者の判断で改編された痕跡が記されており、これも話題を呼んで爆発的に売れた。 編集者よ。この後にある章を私に黙って差し替えるのであれば、代わりにこの節を必ず残したまえよ。 「ああ、ディーノ、どうか許してほしい。 いつも口やかましく倫理と秩序と締め切り厳守を声高に叫んできた私だが、 実際のところ、大いなる知性の預言者足るよう天より賜った高貴なる魂を、 天よりも大いなる権力に屈して自ら悪魔に捧げた恥知らずの臆病者なんだ!!!」 この自叙伝が出版された当日に、デラノの担当編集者が出版社をクビになったという噂がまことしやかに囁かれていたが、それが実話だと判明したのは、デラノの葬儀の場でとうの編集者本人が悼辞に交えて事の次第を暴露したためであった。 改変される前の原稿は、デラノ・ジンクシャー没後20年を記念した企画展の場で公開された。 その全文を以下に記す。 ~省略~ 知己の間柄ならご存じのとおり、「蛇といばら」は、我が生涯に最も大きな影響を与えた偉大な恩人が辿った数奇な運命を、ジャルダン・リータウローズの寓話「呑み得ざるもの」と掛け合わせたものだ。 ゆえに、この場を借りてモデルとなった恩人……もとい親友へと、個人的な思いをつづらせていただくことにする。 やあ親友。 こうして私から語り掛けるのは君の葬式以来のことだな。あれから君が私に語り掛けることはあったのかもしれないが、あいにく私の耳は生前の君ほど開かれていないので、ずっと気づかずにいることだろう。無視をしているのではない、聞こえないのだ。気を悪くしないでくれているといいのだが。 もとより小柄だった君は、生前望んだままさらに小さくなって、虫ほどの大きさになっているかもしれないな。そうしてナナホシテントウの背に跨り、世界中を飛び回っているのだろう。それが君の念願だったのだからね。 ならばきっと、私が今こうして フェガティアが生んだ巨匠(ウケるだろ?) などともてはやされていることも知っているに違いない。腹を抱えて笑っているのが目に浮かぶが、あまり笑いすぎないでくれると助かるよ。もとより私もこの呼び名には慣れそうにもないのだから。 恐れるものなど何ひとつないように振る舞う私が、本来とてつもない臆病者で、一切の自信など持てずに腐れて生きてきたことを、君はよく知っているが、今の私がそのようなことを口走ってみろ。まったく天変地異でも起きたかのように騒がれてしまうからたまらないものだよ。 君があのパティスリーの内装デザインを私に依頼してくれなかったら、こうして芸術に生きることなどあり得なかったという重大な事実を、今や誰も知る由は無いんだ。まったく、おかしいだろう? イブレガーロよりはるか南東の、世界中のゴミが流れつくビャンセ岬で生まれ育った君は、何もないが何でもあるそこで生きることを選んだ人々に、そして優しい姉君に、きっと何よりも愛されて大切に育てられたことを疑わない日はない。君が生まれ育った場所を、君が愛した人たちを、その存在自体を否定されてもなお、君は最後まで我々に愛を返し続けたことが、その何よりの証拠だ。 私は君ほど「無私の愛」を体現できた人を、未だに知らない。 君が愛の人だったからこそ、フェガティアは存続し続けていることもまた、疑う余地は無いのだ。思えばあの蛇大将を ただのルドヴィック に変身させてしまったその手腕が、君のすべてを物語っていた。君がいなければ、誰が彼を救えただろう? 彼を救えない人間にフェガティアを救うことなどできただろうか? この地域を支配する闇の歴史を直視するどころか、認識すらできなかったかつての我々のような存在の中から、いったい誰が? そう、不可能だった。君以外には、絶対に。 この都市が壊されてしまわないよう、あの邪悪で気まぐれな永世名誉議長に魅入られてしまった君が、どれだけおべっかを使わされてきたことか。 自ら目と耳をふさいで罵詈雑言を喚き散らすだけで、物を知ろうともしない哀れな人々のために、君がどれだけのものを与え続けたか。 君が心の声ごと飲み込んだ悲しみや苦しみを、さらに深く深く、心の奥底まで突き刺すことに一切の呵責を持たない自称弱者たちに、君は最後まで沈黙し続けたのは、どれだけ至難の業だったのだろうか。 たくさんの物語を知り、多くの人と多くを語らい、多くのものを見たはずの私だが、今でも君の心の深さを計り知ることができずにいる。まったく恐ろしい人だ。 なあ、私の大親友。誰よりも勇敢で、誰よりも孤独な君よ。 その孤独を唯一癒せる男は、私がこうしてペンを握っている今から10年ほど前、君を探しに旅立ったよ。もうとっくに再会していることを願いたいが、なぜかちっともそうは思えないんだ。君らは長いことすれ違っていたものだから、あのときの印象が私の理想の邪魔をするのだろう。御大将がそこらじゅうのテントウムシの背中をのぞき込んでは、なんだよここにもいないじゃないかと落胆の声を上げている姿ばかり目に浮かぶんだ。頼むから早く会ってやってくれよ。知ってのとおり、御大将はさみしがり屋だ。なのに四半世紀以上も君のもとへ旅立つのを待ち、君が望んだとおり彼は家族とフェガティアのために力を尽くした。あの暴れん坊が、ずいぶん辛抱したものだと思わないか? もしかすると口やかましいヒゲ面の配達員も一緒かもしれない。あれのことは無視してもいいが、とにかく、御大将のことだけは頼んだぞ。 私はまだ君を訪ねられそうにない。仮に君から迎えに来られても同行するつもりも無い。 なぜなら、君の武勇伝と御大将とのラブロマンスを厭味ったらしいほど迂遠に賛美し、世界中にばらまくという使命を、他でもない御大将その人から直々に賜ったのだから! 私は君が生前から背負い続けている「フェガティアの野良犬」なんて馬鹿げた肩書を、「フェガティア終身名誉おのろけ野郎」に書き換えてやる。君の名が嘲笑ではなく苦笑いとともに永遠に語り継がれるようにしてやる。冷酷で腹黒い不明の裏切り者ではなく、ただ愛に生きた能天気な伊達男という本性を、フェガティア大聖堂の彫刻のように、このレームア大陸に永遠に刻み込んでやる。 そうして君の印象がすっかり様変わりした暁には、満を持してその顔を拝みに行こうじゃないか。 どんな間抜けな面をして出迎えてくれるのか、今から楽しみだよ。 君が沈黙を選んだ代償だ。覚悟しておくように。 巨匠(マジで笑える)デラノ・フィデリオ・アウレリウス・イレオン・ジンクシャーより フェガティア終身名誉おのろけ伊達男、フリアン・カレスティアへ捧ぐ <了> なお、フリアンは過酷な生い立ちと根源的世界不信ゆえに無神論者であり、死後の世界や霊魂の存在を信じることができなかったが、信仰が生者と死者を繋ぐ感情の清算行為であり、そこには確かな温かみがあることをルドヴィックとの生活を通して学んだ節がある。 また、フリアンの葬式の際、ナナホシテントウがルドヴィックの肩にずっと留まっていたため、式がものすごく朗らかになったという、ドゥリオルグ家に語り継がれる「死後もネタに事欠かない男エピソード」があったりした。 デラノはそれを知っていて、亡くなったフリアンにあえて語り掛けるようにしたものと思われる。畳む 2026.2.4(Wed) 21:35:30 創作語り
思考回路が伝言ゲームみたいに広がる生き物であるため、その日その日で注力できることがコロコロ変わるのが我ながら難儀。
直接的ではないものの、キャラクターの死の話題と割と直球なネタバレを含むので格納します。
整えたら作品として展示したいところ。
#得ざるものども文章進捗
【あらまし】
親友4人組の中で最も長生きしたデラノが、自叙伝の中でフリアンのことに触れる話。
~以下本文~
ルドヴィックが亡くなってから10年後。
97歳のデラノは、ジャルダン・リータウローズ作の寓話「呑み得ざるもの」を原作に据え、時代の流れに翻弄される男性同士の親密な関係性を描いた戯曲「蛇といばら」を制作。音楽、舞台美術、衣装設定、脚本、何からなにまで自らが指揮を執って作り上げ、ミュージカルとしてイブレガーロ連盟の各劇場で公開した。
古くから親しまれ、何度もアレンジされてきた「呑み得ざるもの」だが、デラノが行った改変は前代未聞であった。賛否両論は瞬く間に世界中を駆け巡り、様々な議論を巻き起こしながらも大ヒットする。
それから時期を置かずに上梓した自叙伝には、編集者の判断で改編された痕跡が記されており、これも話題を呼んで爆発的に売れた。
編集者よ。この後にある章を私に黙って差し替えるのであれば、代わりにこの節を必ず残したまえよ。
「ああ、ディーノ、どうか許してほしい。
いつも口やかましく倫理と秩序と締め切り厳守を声高に叫んできた私だが、
実際のところ、大いなる知性の預言者足るよう天より賜った高貴なる魂を、
天よりも大いなる権力に屈して自ら悪魔に捧げた恥知らずの臆病者なんだ!!!」
この自叙伝が出版された当日に、デラノの担当編集者が出版社をクビになったという噂がまことしやかに囁かれていたが、それが実話だと判明したのは、デラノの葬儀の場でとうの編集者本人が悼辞に交えて事の次第を暴露したためであった。
改変される前の原稿は、デラノ・ジンクシャー没後20年を記念した企画展の場で公開された。
その全文を以下に記す。
~省略~
知己の間柄ならご存じのとおり、「蛇といばら」は、我が生涯に最も大きな影響を与えた偉大な恩人が辿った数奇な運命を、ジャルダン・リータウローズの寓話「呑み得ざるもの」と掛け合わせたものだ。
ゆえに、この場を借りてモデルとなった恩人……もとい親友へと、個人的な思いをつづらせていただくことにする。
やあ親友。
こうして私から語り掛けるのは君の葬式以来のことだな。あれから君が私に語り掛けることはあったのかもしれないが、あいにく私の耳は生前の君ほど開かれていないので、ずっと気づかずにいることだろう。無視をしているのではない、聞こえないのだ。気を悪くしないでくれているといいのだが。
もとより小柄だった君は、生前望んだままさらに小さくなって、虫ほどの大きさになっているかもしれないな。そうしてナナホシテントウの背に跨り、世界中を飛び回っているのだろう。それが君の念願だったのだからね。
ならばきっと、私が今こうして フェガティアが生んだ巨匠(ウケるだろ?) などともてはやされていることも知っているに違いない。腹を抱えて笑っているのが目に浮かぶが、あまり笑いすぎないでくれると助かるよ。もとより私もこの呼び名には慣れそうにもないのだから。
恐れるものなど何ひとつないように振る舞う私が、本来とてつもない臆病者で、一切の自信など持てずに腐れて生きてきたことを、君はよく知っているが、今の私がそのようなことを口走ってみろ。まったく天変地異でも起きたかのように騒がれてしまうからたまらないものだよ。
君があのパティスリーの内装デザインを私に依頼してくれなかったら、こうして芸術に生きることなどあり得なかったという重大な事実を、今や誰も知る由は無いんだ。まったく、おかしいだろう?
イブレガーロよりはるか南東の、世界中のゴミが流れつくビャンセ岬で生まれ育った君は、何もないが何でもあるそこで生きることを選んだ人々に、そして優しい姉君に、きっと何よりも愛されて大切に育てられたことを疑わない日はない。君が生まれ育った場所を、君が愛した人たちを、その存在自体を否定されてもなお、君は最後まで我々に愛を返し続けたことが、その何よりの証拠だ。
私は君ほど「無私の愛」を体現できた人を、未だに知らない。
君が愛の人だったからこそ、フェガティアは存続し続けていることもまた、疑う余地は無いのだ。思えばあの蛇大将を ただのルドヴィック に変身させてしまったその手腕が、君のすべてを物語っていた。君がいなければ、誰が彼を救えただろう? 彼を救えない人間にフェガティアを救うことなどできただろうか? この地域を支配する闇の歴史を直視するどころか、認識すらできなかったかつての我々のような存在の中から、いったい誰が?
そう、不可能だった。君以外には、絶対に。
この都市が壊されてしまわないよう、あの邪悪で気まぐれな永世名誉議長に魅入られてしまった君が、どれだけおべっかを使わされてきたことか。
自ら目と耳をふさいで罵詈雑言を喚き散らすだけで、物を知ろうともしない哀れな人々のために、君がどれだけのものを与え続けたか。
君が心の声ごと飲み込んだ悲しみや苦しみを、さらに深く深く、心の奥底まで突き刺すことに一切の呵責を持たない自称弱者たちに、君は最後まで沈黙し続けたのは、どれだけ至難の業だったのだろうか。
たくさんの物語を知り、多くの人と多くを語らい、多くのものを見たはずの私だが、今でも君の心の深さを計り知ることができずにいる。まったく恐ろしい人だ。
なあ、私の大親友。誰よりも勇敢で、誰よりも孤独な君よ。
その孤独を唯一癒せる男は、私がこうしてペンを握っている今から10年ほど前、君を探しに旅立ったよ。もうとっくに再会していることを願いたいが、なぜかちっともそうは思えないんだ。君らは長いことすれ違っていたものだから、あのときの印象が私の理想の邪魔をするのだろう。御大将がそこらじゅうのテントウムシの背中をのぞき込んでは、なんだよここにもいないじゃないかと落胆の声を上げている姿ばかり目に浮かぶんだ。頼むから早く会ってやってくれよ。知ってのとおり、御大将はさみしがり屋だ。なのに四半世紀以上も君のもとへ旅立つのを待ち、君が望んだとおり彼は家族とフェガティアのために力を尽くした。あの暴れん坊が、ずいぶん辛抱したものだと思わないか?
もしかすると口やかましいヒゲ面の配達員も一緒かもしれない。あれのことは無視してもいいが、とにかく、御大将のことだけは頼んだぞ。
私はまだ君を訪ねられそうにない。仮に君から迎えに来られても同行するつもりも無い。
なぜなら、君の武勇伝と御大将とのラブロマンスを厭味ったらしいほど迂遠に賛美し、世界中にばらまくという使命を、他でもない御大将その人から直々に賜ったのだから!
私は君が生前から背負い続けている「フェガティアの野良犬」なんて馬鹿げた肩書を、「フェガティア終身名誉おのろけ野郎」に書き換えてやる。君の名が嘲笑ではなく苦笑いとともに永遠に語り継がれるようにしてやる。冷酷で腹黒い不明の裏切り者ではなく、ただ愛に生きた能天気な伊達男という本性を、フェガティア大聖堂の彫刻のように、このレームア大陸に永遠に刻み込んでやる。
そうして君の印象がすっかり様変わりした暁には、満を持してその顔を拝みに行こうじゃないか。
どんな間抜けな面をして出迎えてくれるのか、今から楽しみだよ。
君が沈黙を選んだ代償だ。覚悟しておくように。
巨匠(マジで笑える)デラノ・フィデリオ・アウレリウス・イレオン・ジンクシャーより
フェガティア終身名誉おのろけ伊達男、フリアン・カレスティアへ捧ぐ
<了>
なお、フリアンは過酷な生い立ちと根源的世界不信ゆえに無神論者であり、死後の世界や霊魂の存在を信じることができなかったが、信仰が生者と死者を繋ぐ感情の清算行為であり、そこには確かな温かみがあることをルドヴィックとの生活を通して学んだ節がある。
また、フリアンの葬式の際、ナナホシテントウがルドヴィックの肩にずっと留まっていたため、式がものすごく朗らかになったという、ドゥリオルグ家に語り継がれる「死後もネタに事欠かない男エピソード」があったりした。
デラノはそれを知っていて、亡くなったフリアンにあえて語り掛けるようにしたものと思われる。畳む